入試の「隠れテーマ」の一つはスペインだろう
大学入試には、時代に即応した「隠れテーマ」がある。
毎年「環境」「人権」「女性」「差別」「地域」「海」「家庭崩壊」「貧困」というように、国語・英語・社会・理科という教科を横断したテーマがある。
この観点で考えれば、今年の隠れテーマは「戦争」「自分ファースト」「対立」「人工頭脳」「テロ」などだろう。
観点を変えれば、アメリカ・朝鮮半島・EUの歴史・覇権主義・気象変動・宇宙開発・福祉・働き方・長寿社会・IT・将棋・AIがキーになると私は思う。
これからは、テーマを意識して演習することを勧めたい。
その中で、日本から遠いように思われる「スペイン」が穴だろう。なぜか?
「スペイン」が入試のテーマとなる理由とは?
それは「カタルニアの独立運動」の激化があるからだ。
英語や文系科目では、歴史・文化・経済から「出題しやすい」テーマがあるからだ。
学校では意識されないし、取り上げられないが、受験直前には「切り口」をもって学習することが重要である。
漠然とした勉強では効果が上がらない。
そこで、スペインについて触れておこう。
スペインは、人種のるつぼである。
だから、歴史的事件も起こりやすいし、天才・奇人が生まれやすい。
生粋のスペイン人という人はいない。
無理やりに、いくつかの独立した種族をくっつけて「国家」をつくったのだから、バルセロナを中心にしたカタルニア地方が独立したくなるのも当然である。
この地域がダントツで経済的に豊かで、国家財政を支えている。
つまり、圧倒的に税金が高い。
不満の源泉である。
政治的にも、フランコ独裁政権に最後まで抵抗したのがこの地域だったし、人材を豊富に輩出してきた。
しかし、EUの統合によって、スペインの首都マドリードは、政治・経済・文化の中心をパリなど北方都市に奪われ、地方都市に成り下がってしまったという不満がある。
ギリシャ・イタリアなどと同様に国家産業も弱い。
利益を生み出す産業がない。
だから、むかしのスペイン帝国時代、栄光を観光で食いつぶしているという批評もある。
また、日本にキリスト教を伝えたザビエルの出身地であるバスク地方やナバーラ地方も独立しようという動きがある。
スペインは、ブルボンの流れをくむ王制を敷いているが、このままで行けば、独立性が強い連邦国家に移行せざるを得ないかもしれない。
スペインから生まれた文化
ローマ帝国の支配以前から、多様な民族が混在して住んでいた上に、ゲルマン人の大移動で、多様な民族が、ジブラルタル海峡を越えることなく住み着いたのだから、多様な人材、変人・奇人・天才・狂人を排出したのも当然である。
著名な画家だけ取り上げても、ピカソ・ミロ・ダリ・ベラスケス・ゴヤ・・・と、ギリシャ人のグレコがスペインで活躍したことを入れるまでもないほど多種多彩である。
学習の一環として、5枚ほど絵画のコピーを比較してみたらよいだろう。
「これは誰の作品か」と考えると文化史の問題になる。
デジタル端末機で検索すれば簡単だろう。
2020年以降は、こうした出題が多用されると予測されるから注目したい。
セルバンテスの「ドン・キホーテ」という小説を知っている人は多いと思う。
小説を読まなくても「ラ・マンチャの男」というミュージカルで親しんでいる人もいるだろう。
舞台はアンダルシアである。
これは単純な騎士道物語ではない。
背景に、なにもない貧しい地域から、血税を絞り取っていたハプスブルグ家を風刺していることを理解していれば、深く楽しむことができるだろう。
スペインのカルロスⅠ世が、ドイツではカール5世と名乗り「神聖ローマ皇帝」になった。
カネが動いた。
その反動で「ルターの宗教改革」が起こったという絡みを覚えていると入試の出題をみる範囲が広くなる。
セルバンテスは、オスマントルコとの戦い(レパントの戦い)で左腕を失い、その後数奇な運命をたどり、何度か投獄されている内に「ドン・キホーテ」を書いたが、版権を二束三文で売り渡してしまったので、本人は生涯貧しいままだったという。
ちなみに、今年(2017年)は、ルターの宗改改革(1517年)から500年目に当たる。
こんなことも、出題の契機をなるから留意したい。
戦争の危険性とスペイン
フィギアスケートのフェルナンデス選手はマドリードの出身である。
彼はスペイン伝統の曲を使い、高い技術と独特の文化を表現している。
フラメンコ踊りはここが発祥の地である。
貧しさと華麗な挑発的な舞踏が熱く繋がっている。
アンダルシア地方には「風車」があるだけで何もない。こんな荒涼たる地域から血税を搾り取ったから、強烈な皮肉の物語「ドン・キホーテ」が生まれた。
この小説はギャグではない。
チェロの巨匠パブロ・カザルスの「鳥の歌」は、故卿カタルニア地方を飛ぶ鳥は“ピース・ピース”と鳴くと表現し、平和への願いを込めた名演奏をホワイトハウスでした。
ぜひ聴くことを勧める。
先日、バッハの「無伴奏チェロ組曲(全6曲)」を聴いたが、この曲を発掘したのもカザルスである。
ガウディの建築物は、まさに「作品」であって、生活空間に適しているとは言えない。
私はグエル公園を散歩したしたことがあるが、新規に開発した住宅地の宣伝用の造形だそうである、これでは買い手がつかなかったハズだと思った。
私は、ホテルを始め、バルセロナの街にある「作品」をいくつかみたが、ガウディが死んだあとも未完成な「サクラダファミリア」は、観光名所であっても、信仰の対象にならないのではないかと思っている。
しかし、こうした突飛なセンスの建築家と、それを支持するスポンサーがいることがスペインのスペインらしいところだ。
私たちは、こうした異なる感覚にもっと慣れないといけない。
スペインの歴史は、レコンキスタ、グラナダ、トリノなど、魅力的で出題したくなる素材に満ちている。カタルニアの独立運動の問題で注目されているからである。
政治的な問題は、直接入試に出題されないだろうが「裏テーマ」になるから注意したい。
イザベル1世のコロンブス支援から、スペイン継承戦争以降の流れを押さえ、近世以降では、スペイン内戦・フランコ独裁政権は絶対に学習しておきたい。
ヘミングウエイの「誰がために鐘なる」・ピカソの「ゲルニカ」など関連事項が多いからである。
中南米、インカ帝国との関連もスペイン関係で意識しておきたい。
自国ファースト・覇権主義が、他の文明・他国を滅ぼしてしまう典型的な例である。
「覇権」は重要なテーマである。
「戦争」の危険性が高まっている現状では、出題の素材としてスペインは避けて通れない。
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